【対談】エキスパート2人が語るエキゾチックレザーメンテナンスの極意

こんにちは。(株)イシカワの吉川です。

今回は、こだわりのエキゾチックレザーを作り出すタンナーさんとの対談企画です。タンナーという職業は聞きなれないと思いますが、簡単に言うと、動物の「皮」を「革」に加工する専門職です。

タンナーさんが皮革製造業者で、我々はそこで出来上がった革を使い加工し商品を製造するという関係です。

お話を聞いてみたところ、我々にとっても新たな発見があり、エキゾチックレザー製品ファンには、とても興味深い対談となりました。

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タンナー藤城耕一氏について

 

今回、対談していただいたお相手のタンナーさんは、有限会社藤豊工業所の専務取締役の藤城耕一さんです。

有限会社藤豊工業所は、昭和35年創業のエキゾチックレザーを専門に取扱うタンナーです。日本においてエキゾチックレザー製革(せいかく)を行うタンナーは6社。その中の1社であり、特にクロコダイル革の扱いにおいては、新しい仕上げ、加工方法を積極的に取り入れるタンナーとして業界内では高い評価を受けております。

藤城氏は、会社においては独自の感性を持ち合わせた個性の強い技術者達をとりまとめるリーダーでもあります。

クロコダイルやパイソンなどの皮の構造、組織などの専門的な知識もさることながら、化学的な見地からエキゾチックレザーの特性や魅力を語ることのできる人物でもあるのです。

 

一般革とエキゾチックレザーの耐久性の違い

 

吉川:
今日はお忙しい中、お時間を作って頂き有難うございます。色々聞きたいことはあるのですが、まずは牛革などの一般革と比べてエキゾチックレザーの耐久性はすぐれているのか?私の知識だと極端な違いはないと思っています。ただ、インターネットなどでは何十倍も優れているという内容の情報も目にします。藤城さんはどう考えていますか?

藤城:
クロコダイル革で言えば何十倍というと保障はできませんが、クロコの方が強いということは革の構造、いわゆる緻密(ちみつ)な繊維層をもっているところからあながち間違いではないと考えられます。
ただ、これも比較となる牛革とクロコダイル革の厚みがおなじであったり、様々な条件が一緒であればの話しですけどね。専門用語でいうと引裂(いんれつ)強度が関係してきます。

吉川:
引裂強度?それって検査機関などで行う革の両はしを引っぱり合う引き裂き強度のことですかね。

藤城:
そうです。引裂強度は繊維がどれだけ密に絡らんでいるかで革の強さが決まるのです。漢字一文字で例えるならばクロコが「密」で牛革が「粗」というイメージです。牛革の方が若干、粗(あら)いというニュアンスでしょうか。

吉川:
そうなんですか。同じくらいの密度と認識していました。革の組織を基準として考えればクロコダイル革の方が丈夫な皮革と言えるわけですね。

藤城:
タンナーとして製革(色付き皮革を作る)の話しで言えば「密」なクロコは色付き革に仕上がるまでに最短で約3ヵ月を要します。かたや「粗」の牛革は最短で約2~3週間たらずで作り上げることが出来てしまうのですね。繊維が「粗」な牛革はクロコダイルよりも製革に使用する薬品などの浸透がしやすく、繊維の構造からも短時間で作れる。このようなデーターからも繊維層の違いがあると言えるのです。

吉川:
話しを聞いて思ったのですが、客観的に考えればワニはさまざまな外敵やトラブルから身を守るためよろいの様な役割を持つ硬いウロコで覆われている動物なのだから、その皮下の組織が弱い訳がないですよね。

藤城:
そうですね。その認識でいいと思います。その硬い「皮」を柔らかく丈夫な「革」へと変えていくのもタンナーの仕事のひとつです。

 

パイソンレザー脱色の技術は耐久性にも通ずる

 

吉川:
パイソンの話しもお聞きしたいのですが、パイソン革が持つ独特な模様。ダイヤモンドパイソンで言えば、ダイヤ型の連続的なワイルドな柄模様を薬品処理をして脱色させる。そして模様の無い無地の状態にして、綺麗な色を付けていく。この脱色の技術は高度な技術が不可欠で、ヨーロッパ・日本は特にすぐれていると私は思ってます。この技術の高さは、パイソン革の耐久性にも関係があると思っているのですが・・・

藤城:
例えば、ダイヤ模様をそのまま残した仕上げは、日本以外のアジアの国々でもそのクオリティーはタンナーから見ても大きな差がないぐらい、技術は上がっていると思います。しかし、吉川さんが言う様に模様無しの仕上げは日本・ヨーロッパの方が上だと私も思います。差がありますね。

吉川:
私も経験があるのですが、模様が薄っすらと残っていて脱色しきれていないだとか、パイソン独特なソフトな感触が感じられなかったり、発色が良くなかったり。そのような皮革はやはりパイソン革の原産地であるインドネシアやアジア諸国で作られているケースが多い。

藤城:
エキゾチックレザーの中でもパイソンは革が薄い部類に入りますよね。ブリーチ(脱色)というのは皮にすごく負担をかけてしまうのです。だからいかに負担を与えず模様をきれいに脱色させるかが技術なのです。一歩間違えれば、もともと薄い皮がさらにやせて(薄くなる)しまったり、ウロコの谷間が伸びてしまったり、表面がパサパサになったりしてしまいます。

 

吉川:
人の髪の毛を黒から茶にブリーチするのと一緒ですよね。脱色は髪に負担をかけてパサパサになると聞きますしね。

藤城:
そうですね。革がやせれば耐久性も低下します。ブリーチをほどこしても革をふっくらと太らせることも大切です。皮のコンディション・ブリーチ・なめしがしっかりと整っていれば、パイソンの様に薄めの革でもしっかりとして丈夫です。ブリーチで言えば日本の技術は世界に誇れるレベルだと思います。

 

エキゾチックレザー日常使い(汗・雨など)の注意点

 

吉川:
次に既にクロコダイルの財布やパイソンバッグなどをご使用になっているユーザーさんやこれから手に入れたいなとお考えのビギナーの方々にも興味深い内容の、どの様な点に注意してエキゾチックレザーアイテムを日常使いしたらよいか?色々な観点からお話し・アドバイスを聞きたいのですが。ちなみに私が一番気になるのが人から出る「汗」にからんだ話しです。実は私は汗かきです。

藤城:
なるほど。わかりました。何か具体的に事例みたいなお話しがありますか?話しとからめて解説しますよ。

吉川:
例えば、普段使っているパイソンのバッグなどで気がついた時だけ手でウロコの流れに沿ってなでてあげると程良い艶が出てきて、ウロコの先も寝てきて良いあんばいになるなどの話しを良くユーザーさんからも聞くのですが。

藤城:
それは良い意味での事例ですね。気になる「汗」の話しにもつながってきます。

私が考えるに、手って脂分というよりは汗分が強いって思っているのですね。男女や個人差もあるとは思うのですが・・・。今の話しは、手の脂分がうまく作用して艶や味をだしているという事、ナチュラルな脂分補給って感じですね。ほどほどな接触が良かったんじゃないですかね。

吉川:
わかります。私は汗かきの方なので手で持ち続けたり、ズボンの後ろポケットに入れるのも長時間は避けています。クロコダイルの財布を使っていますが、汗が革に良い影響を与えないことぐらいは承知してますからね。

藤城:
化学的な話しになるのですが、人の汗・脂分は個人差もあるのですが、弱アルカリ性の汗を分泌する人もいるのです。人間にもクロコやパイソンにもアルカリ性物質は良い影響は与えないのです。トラブルの原因を作り出しているのが人の汗などのアルカリ成分の付着や浸透という事例も少なからずありますね。

吉川:
せっかくなので、その辺を一般の方にもわかりやすく解説してもらえますか!

藤城:
色落ち・黒ずみ・表面の劣化などを引き起こす原因になりうるということです。でもあまり神経質にならないで下さいね。ちょっとした気配り(ケア)をアイテムにするだけで予防できますから。汗かきの人は長時間ポケットに入れ続けないとか、一日の使い終わりには柔らかい布などで表面をさっと拭いたり、バッグの中などにしまわず、暗い部屋のテーブルの上に置いてひと晩自然乾燥させるとか。アルカリ成分を含む汗は革によくないということは覚えておくと良いですよ。

吉川:
めんどくさいと思う方もいらっしゃると思いますが、財布などはバッグに入れての持ち歩きが一番ですよね。でも、私はしてませんけど・・・

藤城:
その通りです。大切に使ってあげることがメンテナンスの基本ですよ。吉川さん!!

吉川:
分が悪くなってきたので、次の話題に移りましょう。これは弊社のお客様からも良く受ける相談ですね。水・雨に濡らしてしまったケースです。

藤城:
水分も皮革全体に言えますが、汗同様トラブルの原因のひとつですね。色落ちやシミに気を付けないといけません。これも早期発見・早期執行で十分に対応できます。

吉川:
藤城さん、この対処法は私、わかりますよ!まず乾いた柔らかい布などで軽くたたく様な感じで水分を布に染み込ませ、まんべんなく行ったら風通しの良い所で時間をかけて陰干しする。しかし、ドライヤーなどの熱風で乾燥させるのは型崩れや革にダメージを与えるので決して行ってはいけない。間違っていますか??

藤城:
OKです。正しいです。

吉川:
何か補足的なことはありますか?

藤城:
例えば水分を飛ばして完璧に乾燥させたのに表面の感じが以前と違っていて違和感がある場合は、自身で市販のクリームなどで対処しようとせず、購入した販売店に相談することをおすすめします。復元させる為のレシピは色々ありますからね。

 

エキゾチックレザー日常のお手入れ(メンテナンス)

 

吉川:
エキゾチックレザーアイテムは他の一般革と比べて高価じゃないですか。やはり長く持ち続けたいと考える方々は多いと思うんですね。良いコンディションを保って、エイジング(経年変化)も楽しみたい、だけどついつい日々の忙しさからおろそかにしてしまうのがメンテナンスですよね。

藤城:
そうですね。というかメンテナンスしている人の方が少ないんじゃないですかね。わかってはいるけれどもしない人の方が多いと思います。

吉川:
私もそう思います。だから本当に簡単なメンテナンス方法を私たちはユーザー様にお勧めしています。気づいた時にさっとできる様に。

たぶん藤城さんも共感してもらえると思うのですが、やわらかい布で乾拭きを推奨してます。少しづつ繰り返すことにより色の深みと艶感が増し、経年変化を感じられる。

藤城:
そうですね。間違ってはいないと思いますが、タンナーの立場から言うと「乾拭き」となると、ちょっとニュアンスが違うのです。

吉川:
えっ?駄目なんですか!?間違ってます??

藤城:
いえいえ、決して間違っている訳ではないのです。誤解の無いように。簡単に説明すると「乾拭き」というイメージではなく「こすり込む」という感じが本当です。きめの細かい布でこすり込むというニュアンスが正しいのです。

吉川:
乾拭きもこすり込むも大して意味合いは違わないのじゃないですか?

藤城:
クロコのマット仕上げで例えて説明すると革の中に止(とど)まっている脂分(オイル)が時間の経過とともにじわっと表面に浮き上がってきます。その脂分を拭き取ってしまっては駄目なのです。浮き上がってきた脂分を「擦(こす)って革の中に戻す」というイメージが大切なのです。小さな円を描く感じでこすり込む。「拭き取る」イメージではないのです。

吉川:
なるほど。奥が深いのですね。

藤城:
厳密に言うとですよ。乾拭きが悪い訳ではないのです。「ごしごし拭く」ということではないと理解してもらえば結構です。

 

使用環境も大切なメンテナンスのひとつ

 

吉川:
それでは、改めて、藤城さんの考えるエキゾチックレザーアイテムのメンテナンスについて教えてもらえますか。

藤城:
エキゾチックレザーということで言えば、メンテナンスが大変で難しいデリケートな素材と考えず、今まで使用していた物と同様に使用してもらえればと思います。ただ、水分や汗などは皮革に対して良い影響は与えませんので、先程お話した様に極力避けてもらって付着・浸透してしまったら、乾燥などのケアを行ってもらうことが大切です。

吉川:
長く良いコンディションで使っていただく為には、知っておいてもらいたい知識ですね。エキゾチックに限らず皮革製品全般に言えることでもありますよね。

藤城:
あと、紫外線。変色・退色の原因になります。炎天下での長時間の使用や直射日光や紫外線を含んだ照明のもとでそのまま放置し続けるのも革にとってはマイナスな行為ですね。

吉川:
どれもちょっとした気づかいで実践できることばかりですね。

藤城:
物を大切に使いたい。育て上げたい(経年変化を楽しむ)という気持ちがあれば簡単なことです。

藤城:
日々のお手入れは、まずは使い続けていく中で「少しづつ艶感や味が出てきたな」と感じていたら何もしなくていいと私は思います。なぜかと言うと、日常使用されている今の環境、使い方が革にあっている。ということですので、余計なことをする必要はないと思います。

吉川:
実は私の使っているクロコのマットの名刺入れもここ何年これと言ったメンテナンスはしていませんが、いい艶が出て来て満足しています。革に合っている使い方を知らず知らずのうちにしていたのでしょう。

 

藤城:
逆に、「最近ちょっと表面の艶感がなくなってぼけてきた」などの、しっくりこないなと感じた時がメンテナンスの良いタイミングかもしれませんね。先程申し上げたやわらかい布などでこすってみる。良いあんばいに戻ってきたらそれで十分ですね。あと、メンテナンスの時に使用する布でお勧めは、車の洗車やメガネのレンズを拭く時に使うマイクロファイバー製のもの。細かい傷もつきにくくいいですよ。

吉川:
もし戻らなかった場合はクリーナーや艶出しなどの手入れ剤を塗布(とふ)した方が良いものですか?

藤城:
基本的には市販の手入れ剤を安易に使用することはあまりお勧めしません。その中に入っている成分をちゃんと理解していないと状態をさらに悪化させてしまうかもしれませんので。

吉川:
私も同感です。高価なアイテムだけに、使用している革の性質に合った手入れ剤でないと危険ですよね。復元が不可能になってしまったらもったいないですよね。ですから先のことも私どもは考慮して、日々の手入れは布拭きすることのみをお勧めしてますね。

藤城:
それが正解です。一般のユーザーの方々がメンテナンス剤が革に合う合わないをご自身で判断することはできませんからね。一番良いのはやはり気づいたら早めに入手された店舗に相談して革に合った対応をすることですよ。

吉川:
本日は長い時間に渡り、沢山のお話しを有難うございました。お話しをうかがっていく中で感じたことはエキゾチックレザーアイテムだからといってあまり神経質になりすぎないでいいということ。そしてメンテナンスも大切ですが、日常生活の中でちょっとした変化に気付き、少しの注意を傾けることで製品へのトラブルが十分に避けられ、良いコンディションを維持できるのだということ。天然皮革という大きな観点からも再確認でき、本当に良い機会となりました。

藤城:
こちらこそ楽しかったです。有難うございました。少しでもエキゾチックユーザーの皆様のお役に立てばよいのですが・・・最後にタンナーとしてひとつ申し上げたいのですが、理想的な製品を「100」とすると、私たちタンナーが出来るのは「50」まで。残りの「50」はエキゾチックレザーアイテムを手にしたユーザーの皆様に育てあげていただきたいのです。大切な人や大切なお子様のように愛情を持って接してもらえれば小さな変化にも気づいてもらえるはずです。手にした時がスタートです。末長く良いコンディションで持ち続けてもらう為にも、ご理解いただけると有難いですね。

吉川:
いい話しだ!藤城さんに座布団1枚!!

 

最後に

 

インターネットやSNSの普及により、昨今ではクロコダイル・パイソンなどのエキゾチックレザーに関する様々な情報が瞬時に手に入るようになりました。せんえつながら私もちょうど30年間エキゾチックレザーに携(たずさ)わってまいりました。そんな私でも真実なのかと、首をかしげてしまう情報が少なくないのが現状です。

天然素材が故(ゆえ)のメリット・デメリットも開示し、過大評価することなくエキゾチックレザーの正しい本質・知識をご理解いただき、その魅力・醍醐味をお伝えしたいと私どもは考えております。

今回の対談企画という新たな情報発信で、より身近にエキゾチックレザーを感じていただき、これからもさまざまな情報を皆様にお届けしたいと思っております。

 


 

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