エキゾチックレザーアイテムの製作現場Vol.1

抜型

こんにちは(株)イシカワの吉川です。

突然ですが、男性は車・バイク・カメラ・機械式腕時計などのメカ系が好きな人が、女性に比べて多くいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はそんな男性には興味深い、エキゾチックレザー製造現場にはなくてはならない専用器具(機械)をご紹介します。

エキゾチックレザー職人の技量だけではない、アイテムのクオリティーをになう大きな存在でもあるのです。

バッグ・革小物の本格ブランド【Rio de piedra / リオ デ ピエドラ】

 

クリッカー

クリッカーとはクロコダイルやパイソン革を裁断(さいだん)する機械です。

製品のデザインによっては直線的なパーツだけでなく、ゆるやかな曲線やカーブなどに沿って裁断をしなくてはなりません。勿論、職人の手作業で裁断する事もありますが、出来る限り職人たちにはミシンによる縫製などの組み立て作業、クオリティーの核をになう部分に集中してもらいたいのが、我々メーカーの本音です。

鋼(はがね)で作られた「抜き型」と呼ばれるカッターや包丁のように刃先がついている型でバッグや財布の製作に必要な全てのパーツを、数ミリの狂いもなく正確にかつ短時間で裁断するために重宝します。

ゆえに、こちらのクリッカーは完成度の高い製品作りには、なくてはならない存在でもあるのです。

皆様はひとつの財布はどれぐらいのパーツ(外・内側すべて)から作られているかご存知ですか?

財布の大小にもよりますが、横長の長財布で平均30個ぐらいのパーツが組み合わされ製作されています。1本ならばまだしも、6本・12本となるとそのパーツの数は、ふくれ上がってきます。OEM(相手先ブランドの製造)も手掛ける弊社では数日の間、パーツ裁断の為だけにクリッカーの前に立ち続ける事も多々あります。

専門的なお話になりますが、クロコ革や牛革には目には見えない繊維層というものがあり、そこには「繊維の流れ」という存在があります。それを無視して何も考えずただ裁断する事は、結果的に製品のクオリティーに大きな影響を与えるのです。

製品の見た目は一緒ですが、使用していく中で違いが表れてきます。機械による裁断とはいえ、専門的知識を知った上で行わなければなりません。

 

 

バンドナイフ

バンドナイフとは革をけずり取り、薄くする作業に使う機械です。この作業を「革漉(す)き」と呼びます。革の厚みを調整し、革全体を均一にする際に頻繁に使用します。フォーチュナ社(ドイツ製)のバンドナイフなのですが、あの誰もが知るフランスメゾンブランドの工房でも同社のバンドナイフが導入されています。

0.1ミリ単位で革の厚みを調整できる精密さを持ち合わせているすぐれものです。この数ミリ単位の微妙な厚み加減が、クロコダイル財布やバッグのしなやかさ・重さ・使いやすさに影響を与える重要なところでもあります。

機械の精密さもさる事ながら、エキゾチックレザーの特性の理解度・経験値・クオリティーへの追及心がものをいう工程なのです。

そしてこの漉き工程の最大の難点は「失敗」というリスクが毎回伴うという事。革を切ってしまったり、穴をあけてしまったり、革をバラバラにしてしまい製品化できない状態を作り出してしまう可能性が高い作業で、正直慣れている者でも緊張の連続です。

そのような心境であっても0.1ミリにこだわる、手で触った感覚で理想の厚みをジャッジする、何ミリの厚さだからOKではなく、基準はいつも自分の中の「物差し」なのです。

 

 

プレス機

プレス機は革に艶を増したい時や革を平らにしたい時に使う機械です。ご家庭で言えばシャツなどのアイロン掛けの様なイメージのものです。
高温に設定された大きな鉄板の上に革を乗せて、強い圧力を掛けるという作業になります。

主にクロコダイル革やリザード革の艶感のあるグレージング(シャイニング)仕上げの素材に使用します。

革が波をうっていたり、よれていては不格好な製品に仕上る事が予想されます。そこでひと手間かける、かけないで製品のクオリティーは大きく変わります。

どんな素材でも各パーツが平ら(フラット)な状態である事が基本中の基本と私どもは考えています。
またプレス加工をほどこす事により光沢感が増します。グレージング仕上げの特徴である品のある高級感・透明感の印象を強く出したい時にも使用します。

但し、プレスを強くかけすぎてしまうと、自然なリアルレザーの特徴の凹凸などが平らになり、型押しの様な表情になってしまうので注意が必要になってきます。

今でも覚えておりますが、入社して初めてクロコ革を台無しにしてしまったのが、このプレス加工の作業でした。 エキゾチックレザーの知識が浅かった私は、梅雨時で湿度も高く沢山の水分がクロコ革に吸収されている事に気づかず、高温と高圧力を一気に加えた事で、革の組織を破壊させてしまいました。

プラスチックの様な硬いクロコ革になり、やむなく処分した次第です。エキゾチックレザーの特性、メリットやデメリットをきちんと把握した上で事に当たらないと取り返しのつかないことになりかねません。良い勉強となった思い出のひとつです。

注:エキゾチックレザーを含む天然皮革は水分(湿気)が原因で革に悪い影響を及ぼす事が有ります。

 

 

コバ漉き機

コバ漉き機とは、先程ご紹介したバンドナイフと同様、革を薄くする時に用いますが用途が異なります。製品の縫い代(しろ)や重なり合う部分だけを薄くしたい時に使う「部分漉き機」なのです。

皆さんは「コバ」とは何かご存知ですか?ご存じない方の為に少し説明を加えておきましょう。
「コバ」とは、革の端(はし)っこ、縁(ふち)の部分を指します。
財布やバッグなどの縫製(ミシン目がある所)部分がその部分に当たります。
イメージできましたでしょうか。

製品の仕上げ製法によって革のコバ部分を薄くして折り合わせたり、革の端と端をつなぎ合わせて一続きにしたりする時などに、コバ漉きをほどこします。適正な厚みにすることで製品全体の見た目や手ざわりも変わってくる重要な作業です。

牛革などのコバ漉きはできても、クロコダイル革やパイソン革はできないという職人が多いのも事実です。 牛革の平らな革と違って、エキゾチックレザー全般の革はうろこなどの独特な谷間、ツブなどがあり薄く加工するには技術と経験が必要となります。製品の良し悪しは「革漉き」で決まると言っても過言ではありません。

 

ミシン

あえてミシンの説明は不要と思いますが念の為に。
ミシンは製品製作の要となる縫製(ほうせい)の時に使用する機械をご紹介いたします。 エキゾチックレザー製品の製作にはその用途に合わせ、臨機応変に力の強い工業用ミシンが使われます。
今回は3種類のミシンとそれが主にどのような工程で使われるかを簡単にご説明します。

こちらの平ミシンは平面のパーツや直線を縫う時に多く使用されます。 平らな持ち手(ハンドル)やショルダーベルトなどを製作するときにもこのミシンを使用します。 フラットなテーブルが付き安定した状態でのミシン掛けなので波をうったり、ゆがみを出したくない部分のミシン掛けに適しています。

 

こちらが筒ミシン。業界の人間はうでミシンとも呼んでいます。 クロコダイル財布やバッグの各パーツを見に合わせ、立体的な形へと作り上げる時に使用します。 平ミシンの様にテーブル台があると革や製品に不都合が生じる場合、最後のまとめ、仕上げがメインになる工程の時に多く使用されます。

 

こちらがポストミシン。一般の方はまずお目にかからない長い棒がついているミシンです。基本的には先に上げた平ミシン・筒ミシンでは縫う事が出来ない・適さないケースの時に使用されます。製品のクオリティーを損ねない為、細部までしっかりと縫い付ける時など、バッグのデザインなどにより職人の判断で使い分けていきます。

 

最後に

通常、日本のエキゾチックレザーの製造メーカーはその舞台裏などを公開する事はあまり好みません。しかし、最近ではヨーロッパのメゾンブランドが製作現場や制作工程のごくごく一部をおおやけにしている所を目にする様になりました。

Rio de piedraもそれに右へならえという訳ではありませんが、なかなか表に出ない製作現場の雰囲気を感じて頂きたい。クロコダイルやパイソンの素材の高級感・希少性だけではない、繊細かつ丁寧なモノ作りに取り組んでいる背景をお伝えしたいと思っております。
年季の入った機械たちから少しでも感じ入るものがあったら幸いです。

 


 

バッグ・革小物の本格ブランド【Rio de piedra / リオ デ ピエドラ】








 

 

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